(ラーゲルレーブ著『キリスト伝説集』「ともしび」より 作画:佐藤成美)
むかしむかしフィレンツェに、ラニエロというそれはそれは乱暴な男が住んでおりました。ラニエロは嘘つきで喧嘩好き。そして何より、いつも自分の力を人々に自慢したがっていました。そのため、戦争がはじまると兵士として出かけて行っては、敵から分捕った宝物をフィレンツェ大聖堂のイエス・キリストとマリアの像に献げて、自分の手柄を自慢するのでした。
そんなある日、とおいとおいエルサレムにあるイエス・キリストの墓がイスラム教徒に占領された、という話が伝わりました。人々は「十字軍」を作ってこれを取り返すことになり、ラニエロもその一員となったのです。
そしてその戦いで大きな手柄を立てたラニエロは、そのほうびとして、キリストのお墓の前にある尊いともしびを自分のロウソクに移すことを許されたのです。
その夜のこと、戦勝祝いの宴の席で、ある兵士が言いました。「ラニエロよ、いくらお前がすごい奴でも、そのキリストのともしびをとおいフィレンツェまで運ぶことなど出来はすまい。」
これを聞いたラニエロは、「なにを、こんなともしびを運ぶことくらい、俺様にとっては朝飯前だ」、そう叫びました。そして次の日の朝早く、鎧兜を身に着けて馬にまたがり、手にともしびをもって、さっそうと出かけていったのです。
しかし、馬に乗って数歩進んだところで、ラファエロはこの旅がなかなか大変なことに気づきました。なにしろそのともしびは、少しの風がふいただけで消えそうになるからです。仕方なくラニエロは後ろ向きに馬に乗り、体を覆いかぶせるようにしながら、ともしびを守って、進まなければなりませんでした。
一歩ずつ進んで行くラニエロには、様々な患難が襲いかかりました。強盗に襲われお金を奪われたこともありました。町や村の人々にその姿を嘲笑われたこともありました。予備のロウソクが全部なくなってしまったり、雨のためにともしびが消えかけたこともありました。
そのようにして、様々な患難を乗り越えて旅を続けるうちに、乱暴で人を傷つけることが好きだったラニエロは、美しいものや優しいものを喜び、平和を愛する人へと変えられていきました。
そしてとうとうラニエロは目指すフィレンツェの大聖堂にたどり着いたのです。
ラニエロは馬からおりて大聖堂に入ろうとしました。すると、その時です。一羽の鳥が飛んできて、ともしびにぶつかりました。そして、とうとうともしびは消えてしまったのです。ラニエロの目には涙があふれました。
ところがラニエロがふと顔を上げてみると、なんとその鳥が燃えながら大聖堂の中を飛び回っているではありませんか。そしてその鳥は、燃えたままでイエス・キリストとマリアの像の前にぽたりと落ちて息絶えたのです。
これを見ていたラニエロはあわてて駆け寄り、鳥の亡骸に燃える火を像の前にあるロウソクにともしました。
このようにしてラニエロは、はるばるエルサレムからフィレンツェまでその尊いキリストのともしびを運ぶことが出来たのです。
そしてこれを見た人々は「これは神様の奇跡だ」と驚き、ラニエロの成し遂げた偉業をいつまでもほめたたえたのです。
(2019年12月24日 クリスマス燭火礼拝 佐藤成美牧師説教より)